Feb 26, 2012

Complete Inuit shaman life story 1922



映画「Journals of Knud Rasmussen (2006)」から。

20世紀前半、現在のカナダ北極圏イグルリック周辺に実在した Aua という名のイヌイットのシャーマンが、彼の生い立ちと、極限状態においても彼らが頑にタブーを厳守する理由を、この地域を訪れていた探検家のクヌート・ラスムッセンに語る場面。

この映画は第五次チューレ探検がもとになっており、ラスムッセンが記述した報告書にもこの場面のことが克明に記録されている。youtube にアップされているこの場面は、長大な第五次チューレ探検記のなかでも人類普遍のテーマに迫る核心のひとつだと思っていたので、初めてこの映画を見たとき、この場面が再現されていたのはとても嬉しく思った。

第五次チューレ探検の報告書からは、かつてのイヌイット文化の記録という範疇を越えて、生きること(死についても)、写真を撮るということにおいても啓示を与えられた。ただ、映画自体の出来はザッカリアス・クヌック 監督の前作である「Atanarjuat (アタナッジュアッ)」の方が圧倒的に素晴らしかったと思う。「Journals of Knud Rasmussen」は原作を何度も読んでいるためかもしれないが、強烈な雪の照り返しで日焼けした顔や、動物の脂や血で汚れた使い込んだ衣服などが再現されて生活の匂いまで感じられるほどだったら、映像や言葉にもっと凄みが出たのではと思ってしまう。

実際には「アタナッジュアッ」ほど話題にならなかったようだが、現地におても忘れかけられている「大切な何か」を今に再提示するために、カナダとグリーンランドの協力でこのような映画が作られた意義は大きいと思う。カナダバフィン島とグリーンランドはデイビス海峡に隔てられているものの、目と鼻の先だ。にも関わらず、イヌイットたちの交流は意外と少ないように感じる(定期便も皆無)。おなじ言葉を話す者たち同士でもあるのに。だからこそスタッフにとっても、この映画制作は貴重な経験だったに違いない。