Jan 17, 2017

「クマの子殺し」から思ったこと・・

先日、あるテレビ番組で日本のツキノワグマを追っている動物カメラマンがとらえた貴重な生態の映像が紹介されていた。子グマを育てるメスのクマの姿が特に印象的だったが、そのなかで発情期に入ったオスクマによる子殺しの場面があった。ナレーションでは「ツキノワグマでは初めて確認された行動」とあり、今まで未確認だったことが意外で驚いた。何故ならば、ヒグマやシロクマではすでに知られた行動であったからだ。だからツキノワグマでも多分あり得る生態と思っていたのだが、やはりその場面を確認するには相当な努力が必要なのだろう。山岳地帯の多い日本の地形を考えれば、その観察の困難さもうかがい知れる。

話が少しズレるが、そこでふと思い出したのが、何年も前に日本のある報道写真雑誌で、一頭のシロクマが若い個体のシロクマの頭部を口にくわえたかなりエグくて衝撃的なカラー写真が掲載されていたことだった。海外のカメラマンがとらえた写真だったが、なんとその写真のキャプションの内容は「温暖化現象により氷が減少してアザラシなどを捕まえることができなくなったために、シロクマが共食いを始めた・・・」というものだったのだ。

人が何かを表現すると少なからずバイアスというものがかかってしまうものだが、温暖化現象に強引に結びつけてよりセンセーショナルな ”事件” に作り上げようとするこのカメラマン(あるいは編集者)の明け透けな意図と短絡さに呆れかえってしまったものだった。もしあらかじめシロクマの生態を少しでも調べていたら、こんな恣意的なキャプションは書けなかったのではないだろうか。ほんのわずかの言葉の誤謬が、その写真の価値を台無しにしてしまう恐ろしさも感じたものだった。

自然観察では、仮説を立てることと憶測を述べることは別物なのだ。「不確かなこと」をさも事実のことのように書くことは危険極まりない。上記の記事を読んだ読者のなかには「シロクマは環境の変化により共食いをするようになった(本来は共食いはしない動物)」と捉える者が少なからずいたであろう。

あくまで「根拠がないもの」や「不確かなこと」は最初から書いてはならないのだ。このことは自然科学にかぎらず、社会問題や社会科学に関連した出来事を伝えることにも言えることではないだろうか。最近ネット上で話題となっている大手メディアによる「捏造」とも繋がっているだろう。そういう意味においても、結局は一人一人の受け手が情報をよくよく吟味することが大切なのだと思う。