「Tissannartooqsuuavik ippisaangitsossuutit」
(チッヒャンナットーッホーアビッ イッピヒャーギッチョホーチッ)
ナイフは狩猟をいとなむエスキモーにとって、子供から老人まで日常的に使うとても重要な道具だ。上記の言葉は、グリーンランド北西部の猟師たち(特に男たち)のあいだで使われる表現で、切れないナイフを使っている人をからかう言葉である。
直訳すると、「いつもムスコを勃起させているから、おまえのナイフは切れないんだ」。
つまり、「お前はまだ若いから、ナイフを上手く研げないんだ」、「ナイフを上手に研ぐには経験が必要だ」ということを言い表している。現地の猟師からこの言葉を聞いたとき、なるほどなあと関心して、しつこく聞いて発音をカタカナにまで表して日記に書きとめておいた(その間、彼は笑い転げていたことは言うまでもない)。
どんな文化にも独自の表現があるものだ。グリーンランドではエスキモー語(イニュクティトゥット)は話されているが、アラスカやカナダ西部では年配の人たちしか話せず、若者たちは英語しか理解できなくなってしまった。彼らにも生活や文化に根付いた独特な表現が色々とあったろうに、残念なことだ。
ちなみに、私がグリーンランドでの撮影に持参していた切れが悪いアーミーナイフは安物で、金属の硬度が低くやたら粘りが強くて誰が研いでもお手上げだった。