Jan 8, 2013

My favourite things 1




これまでたくさんの写真集を見てきたが、決して数は多くないが自分自身に決定的な影響を与えてくれたものが何冊かある。そのうちの一冊は Brian Lanker 著の「I Dream a World: Portraits of Black Women Who Changed America」だ。ビジネスから芸術、学術関係などさまざまな分野で活躍するアメリカの黒人女性の肖像を、大判のジナーやハッセルブラッドで撮影したモノクロームの写真集だ。

1989年頃にでた写真集で、学生時代にたまたま町の書店でこの写真集を見つけた。実は、当時はカラーで写す風景や生物写真しか興味がなかった。モノクローム写真は興味がないどころか、どことなく古臭い感じがして毛嫌いさえしていた(授業ではモノクロフィルムを使わされていたが)。ところが、この写真集を何気なく手にしてパラパラとページをめくると、そのままレジへ直行していた。

当時の自分にとって、アメリカの黒人文化や人種問題、著者がピューリッツァ賞を受賞した著名な写真家だったことなど、まったく興味もなかったしどうでもよいことだった。ただ、人生までを浮き彫りにした重厚なポートレートに圧倒され、そこに写し出されている女性の美しさに魅了されたのだと思う。モノクローム写真の美しさ、ポートレートという手法の可能性、そして人間の美しさと同時にその存在の不可思議さ・・・このようなことは時間を掛けながら少しずつわかってきたように思う。最初は「この写真集は後々自分にとってとても重要になってくるんじゃないかな?」という予感めいたものだけだった。自分が持つ「嗅覚」だけが本物を見極めるための頼りだった。そもそも、そのときの自分にこの本が必要かどうか、などとその場限りの取捨選択的な目で作品というものを見ていたら、なんて偏狭でつまらないことだろう(写真集は高いし、当然無駄な出費になり得るというリスクもあるが、自腹を切らないと学べないこともあると後に知った)?そして「自分自身」というものさえ、つねに変化してゆくものだ。

この写真集は、全てひっくるめて当時の自分をいろいろと開眼させてくれたのだったが、それから4〜5年後、まさか自分が写真家を志し、しかもモノクロームで人物を写すことになるとは夢にも思わなかった。この写真集との出会いなくして、いまの自分の撮影スタイルもテーマもなかったかもしれない。

大学を卒業して撮影助手をしていた時代のこと、あるとき師匠とお酒を飲んでいたときに「ポートレートという手法で真理を追求してゆくことができるのか?」とたずねられた。そしてはっきり「はい。できます」と答えたことを覚えている。そして、いまも孤独な探求を続けている。